「ねぇ、弁慶」
「なんですか」
「…好き」
「えぇ、僕もですよ」
優しい声で囁きながら、そっと髪を撫でてくれる大きな手。
「嘘」
「嘘じゃありません」
そっと目を開ければ、弁慶の優しい笑みが見える。
でもそれは…誰にでも向けられる、笑顔。
「嘘だもん」
「本当です」
「…嘘」
「おやおや、僕は随分と君に疑われているようですね」
苦笑しながらも、髪を撫でる手は止まらない。
「…疑いたくも、なるよ」
「どうしてですか?」
「誰にでも優しいから…」
弁慶は誰にでも優しい。
それが女性であれば、その笑みで、その声で…相手を惑わせる。
決して本人にその気がなくても、相手はすぐに勘違いしてしまう。
だって…今のあたしがそうだから。
「誰にでも、ね」
「…違う?」
弁慶の膝に頭を乗せたまま、視線だけ弁慶の顔へ向ける。
空の青に映える綺麗な髪は、黒衣に隠されてしまっているけれど、微かに覗く金髪が太陽の光でキラキラ輝いている。
まるで…弁慶の笑顔みたいに、眩しい。
僅かに目を細めた瞬間、ふと頬に当たる光が翳った。
「君の瞳に、僕はどんな風に映っているんでしょうね」
「…どうだと思う?」
「逆に問われるとは思ってもいなかったな。そうですね…」
顎に手を当てて神妙な顔をしている弁慶をじっと見つめていると、ふと表情を柔らかくしてにっこり微笑んだ。
「ヒノエの優しい叔父さん、という所ですか?」
「ぶっっ!!」
予想外の言葉に思わず吹き出してしまい、慌てて口元を押さえて弁慶から視線をそらす。
「おや、違いますか?」
「えっと…」
「それじゃぁ…九郎の腹心、源氏の軍師かな」
それはあながち間違えてないかも。
うんうんと頷きながら、弁慶を見つめていると…その表情が一変して冷たいものに変わった。
「それとも、沢山の人を欺き傷つけてきた………咎人、ですか」
「…え?」
突然の風に邪魔されて、最後まで弁慶の言葉が聞こえなかった。
風で黒衣がなびき、それを手で押さえて再び顔を上げた弁慶の表情には…いつもの穏やかさが戻っている。
「あぁそうだ、一番簡単な表現がありましたよ」
「何?」
少し乱れた髪を手で押さえながら尋ねると、弁慶が笑顔のまま顔を近づけてきた。
「ちょっ…」
「動かないで…可憐な花を手折るつもりはありません」
「え、でも…あ、あのっ…」
「しぃ…静かに…」
徐々に近づく弁慶にどぎまぎしつつ、あと数センチという距離まで近づいた瞬間、反射的に目を閉じる。
チュッという音と共に、額に触れた温かな温もり。
そのまま離れたかと思うと、耳元に甘い声が注がれた。
「さんという可憐な花に恋をする男…それが今の僕です」
「弁慶…」
「君が好きです。僕の言葉が信じられないのなら、何度でも言います」
優しく抱き寄せられて、弁慶の吐息を感じながら…甘い囁きが耳をくすぐる。
「好きです」
「…っ」
「誰より君を想っています」
「も…」
「こんな風に僕を魅惑するのは君だけですよ」
「弁慶…も…」
「ふふ、まだ逃がしてあげませんよ。僕への疑いが晴れるまでは、ね」
陽だまりの中、垣間見えた弁慶の冷たい表情は今は何処にもない。
でも、きっと、あの一瞬見せた表情も…あたしの好きな彼に違いは無い。
優しい叔父さん…という言葉を書いて、思わず吹き出したのは実は自分だったりします。
…優しい…うん、多分本当に優しかったんだろうな…色んな意味で。
白も黒も、闇も…それら全て抱えてる弁慶が大好きなんですが、受け止めきれるかといわれると自信が…(苦笑)
それでも、こんな風に口説かれれば…ころりと落ちるだろうなぁ(遠い目)
あぁ…久し振りに弁慶に会いたい…ゲーム引っ張り出すか!(そこ!?)